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潤滑油管理項目と目的

状態監視による機械設備保全」では潤滑油分析による機械設備状態の管理、監視の重要性について説明しました。ここでは潤滑油分析時よく取り上げられる分析項目と分析背景及び分析手法について説明します。潤滑油分析項目は大きく3つの要素に分解され、

  1. 摩耗粒子:設備の摩耗・損傷状態
  2. 異物混入:潤滑システムの状態
  3. 化学成分:潤滑油自体の状態

を把握できます。詳細には次のような分析項目があげられます。

水分量

潤滑油中の水分量が増加すると、潤滑効果の低下や添加物の破壊あるいは設備の腐食を促進します。また水分の混入は潤滑油の酸化を加速します。特に合成油においては酸化の進みが早く、最終的に設備破損の一因となる酸性物質の生成まで至ります。

高負荷の回転機械では乳化水や遊離水が蒸発しやすく、深刻な設備摩耗に繋がることもあります。

潤滑油中の水分量はカールフィッシャー法や赤外分光法が適用されます。弊社商品としてはFluidScanシリーズで分析が可能です。

動粘度

潤滑油の基本特性であり、動粘度が変化すると潤滑油が期待される機能を発揮できなくなります。

通常は動粘度計で40℃での動粘度を分析します。弊社商品としてはU-ViscS-Flow+MiniViscシリーズで分析が可能です。

摩耗粒子の金属

潤滑油中の摩耗金属粒子の元素分析を行うことで設備中の機器類の摩耗状態の把握をすることができます。

摩耗金属粒子の元素分析では鉄、スズ、アルミニウム、ケイ素、ホウ素、リン及びチタンが主要な分析対象です。特にチタンは硬度が高い金属の為、チタンが多く検出されている場合、機器類の摩耗が深刻化している可能性が示唆されます。

金属元素分析は一般的に誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)で行われます。弊社ではより簡易的に分析できる回転ディスク電極発光分光分析装置SpectrOilシリーズを取り扱っています。またポータブル鉄粉濃度計FerroCheckシリーズにより、鉄粉濃度を分析することで簡易的に金属量の変化を捉えることができます。

摩耗粒子の量、粒径分布、形状・色

摩耗粒子の量や粒径分布変化及び形状観察は設備中の機器類の摩耗状態の把握をすることができます。大径の粒子は異常摩耗粒子である為、大径粒子の含有比率が増加している場合、ギアの嚙み合わせ不良やシャフトの歪み等の異常が発生している恐れがあります。摩耗粒子の形状や色を観察は機器の不具合原因や不具合箇所特定の一助となります。

定量フェログラフィー装置DR-7により、摩耗粒子の量や粒径分布を分析できます。ただし相対値となる為、定期的な分析が必須です。

形状や色については分析フェログラフィー装置FM-6で作成したガラススライド試料(フェログラム)を顕微鏡観察することで確認します。

また画像式パーティクルアナライザーLaserNetFineシリーズでは粒子の量、粒径分布、形状及び鉄粉濃度をまとめて分析、観察できるモデルもございます。

ほこり、汚れ等の粒子状異物

ベアリング不具合の80%は粒子状異物混入による潤滑不良により生じると考えられています。

画像式パーティクルアナライザーLaserNetFineシリーズではこれらの非金属性の粒子状異物も検出できます。

添加物

機器類の保護の為、潤滑油中の添加物が含有している場合があります。例えば、摩耗粒子を設備中から排出しやすくするために粒子を分散させる分散剤を加えます。また、機器類の表面に保護被膜を形成する摩耗防止剤や極圧剤が添加されることもあります。

添加物の残存量は添加物中に含まれる元素濃度の推移を確認することで把握できます。金属元素と同様にICPでの分析が一般的ですが、弊社取扱製品の回転ディスク電極発光分光分析装置SpectrOilシリーズでも分析可能です。

TAN(酸価)/TBN(塩基価)

劣化により潤滑油の化学組成が破壊されると、酸性物質が生成されます。生成された酸性成分は金属の腐食を招き、いずれは設備の破損に結びつきます。

また添加物として塩基性物質を入れている場合は、TANがしばらくは下がり続け、塩基性成分を消費した時点を境に上がり始めます。エンジンオイルの場合は、TANの代わりにTBNを確認し、添加物として加えた塩基性物質の推移を確認します。

TAN、TBNはいずれも電位差滴定法で測定することが多いです。弊社商品FluidScanシリーズでもTANやTBNの分析を行うことができます。