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ISO 10632 種子中の水分と油分の同時測定

1.概要

ヒマワリ、大豆、ラッカセイ、木綿、アブラナなどの種子は、油分を目的として栽培されています。したがって、これら種子の油分含有量を正確かつ迅速に測定して把握することは、栽培者/購入者ともにとても重要です。また、種子中の一定量以上の水分含有量は、農産物のコストと保存期間を短縮します。

酸分解法のような従来の油分測定方法は溶媒抽出に基づいており、①時間がかかる②有害な反応物や溶媒を使用する③測定結果が測定者の経験に依存する、といった問題点がありました。したがって、この方法は精度が低く、再現性が低いという特徴がありました。赤外分光法はこの評価に非常に適していますが、デバイスの校正は簡単ではないというハードルがあります。また、水分含有量は、乾燥と重量測定によっても測定可能ですが、これは時間のかかる手法です。

そこで、NMR法による水分量・油分量の測定は、有害な試薬や溶媒を使用することなく、簡便で正確な代替法として注目されています。

 

種子分析の方法としてのNMRは、次の規格に含まれています。

・GOST R 8.620-2006 (ロシア)

・ISO/CD 10565 (ヨーロッパ) – 種子中の油および種子中の水分

・ISO 10632 – 種子残留物中の油と水について

 

2.原理

時間領域核磁気共鳴装置(TD-NMR)は、この油分と水分の両方のパラメーターを同時に迅速に測定することが可能です。水分に由来するNMR信号強度は、比較的緩和成分が遅く現れる油分に由来する信号強度に比べて急速に減衰するため、NMRによる測定は水分と油分を分けて定量的測定を可能にします。

このアプリケーションでは、2パルスシーケンスFID-Spin echoが使用されます 。油分は最も長い緩和成分として現れるため、後発のSpin echoの信号強度が油分量のNMRシグナルに由来します。

水分量は間接的に算出を行います。最初のFIDの信号強度は全水素量の由来しており、前述の油分量のNMRシグナルを掃引することで水分量のNMRシグナルを得ることができます。

上述の通り油分量はSpin-echoの信号強度から直接求められますが、水分量についてはFIDの信号強度からSpin-echoの信号強度を引いた値を用いて求めるため、精度については油分量の方が優れています。

水分と油分が該当するNMR信号強度

 

3.測定と校正

測定は以下の手順で実行されます。

1.水分/油分含有量の既知の値を持つ複数のサンプルによる校正 ※3検体以上が望ましい

2.サンプルチューブへ充填

3.充填サンプルの重量計測

4.サンプルチューブを装置に挿入

5.測定の実行(通常1分以内)

6.測定結果の記録

検量線作成の例

 

4.特徴と利点

TD-NMRを用いた水分量/油分量測定の特徴と利点は以下です。

・短い測定時間と高い精度

・試薬コストが最小限

・測定者による作業回数の削減

・測定環境の湿度に依存しない測定手法

 

5.評価事例

実際に本手法を用いて藻類サンプルを用いて油分量を測定した事例を示します。

検量線作成のサンプルとして、油分量が既知の藻類サンプルがなく、当該サンプルの油分に由来する成分がオリーブオイルであったため、オリーブオイルを検量線サンプルとして用いることとしました。

3点分のオリーブオイルを充填したNMRチューブを用意し、充填重量を正確に記録し、校正を実施しました。

充填したオリーブオイル量を縦軸に取り、そのサンプルを測定して得られたNMRシグナル強度を横軸に取って作成した検量線が下図となります。

測定を行う油分量が未知の藻類サンプルはNMRチューブに充填する際に正確に重量計量を行います。これは、サンプル測定で得られる油分量の単位が重量(グラム)で得られるためです。その値をNMRチューブに充填した際に計量した重量で割ることで、サンプル中の油分量の割合を算出することが可能です。油分量が未知の藻類サンプルを測定して得られたNMRシグナル強度を、先に作成した検量線に照らし合わせることで、油分量(g)を算出し、導入重量で割ることでサンプルの油分量(%)が得られます。

 

6.適用できるアプリケーション

本手法はOil In Seedsと称した種子中の油分/水分量の測定が代表例ではありますが、種子や上記評価事例である藻類以外にも、以下のような幅広い分野でのサンプルに適用が可能です。

・アボカド、チーズ、食用ナッツ、粉ミルク、スナック菓子、紙

7.結論

・TD-NMRでは本手法を用い、Spin echoの信号強度と油分量が関係づけられ、FIDの信号強度からSpin echoの信号強度を差し引いた強度と水分量が関係づけられており、検量線作成を行い測定を行うことで簡単にこれらの定量評価を行うことが可能です。

 

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