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製薬原料識別方法~ラマン分光~

光には波長ごとに様々な性質があり、物質と相互作用する事で物質と光の双方ともに変化します。この変化を測定する事で、物質の構造(分子構造)が分かります。
ここではまず、「光とはどの様な性質を持っているのか」、「熱による光の放射」について具体例を交えながら、説明をします。
次に、光から情報を取り出す際に重要なスペクトルの説明をし、取り出す方法である分光法について述べます。
最後に、製薬原料識別方法として現在有力な方法であるラマン分光法について説明をします。
この技術情報から、ラマン分光法がサンプル識別にとって有力な手法であることを理解出来る様になります。

光とはどの様な性質を持っているのか

私たちの身の回りには、様々な表情を持った光が存在します。

蛍光灯から発せられる目に見える光(可視光)
電子レンジに用いられ物を温める性質を持つ光(赤外線)
人の肌を日焼けさせる性質を持つ光(紫外線)
病院でレントゲン写真を撮る際に用いられるX

などといった光として存在します。

 

光が持つこれらの性質は波長の違いによるもので、短い波長(ガンマ線)から長い波長(電波)まで連続的に存在しています。ちなみに太陽光は、400nm800nmの可視光領域で最も強い強度を持つ連続光です。

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また光には、身の回りの様々な物質と相互作用をして、エネルギーの交換を行うという面白い性質を持っています。例えば、物を温める赤外線が物質と相互作用すると、赤外線のエネルギーは物質内の電子にエネルギーを与え(電子が励起状態にあると言う)温まるという現象が起こります。

以下に、光の性質について4つまとめています。

  • 透過:光と物質が相互作用せずに通過すること。
  • 散乱:光と物質が相互作用した後、物質から再び光があらゆる方向に放射されること。
  • 反射:光が物質に当たり、入射角と反射角が同じになる様に再び光が放射されること。
  • 吸収:光が物質と相互作用し、エネルギーが物質に奪われ、光が放射されないこと。

熱による光の放射(原子・分子振動)

 木炭に火を点けるとぼんやりと赤っぽく光る現象を見た経験があるかと思います。また、溶鉱炉などで鉄が溶けて赤またはオレンジ色で光っているのを見た経験などがあるかと思いますが、あれは炭素や鉄などが熱エネルギーを吸収し、それを光エネルギーに交換しているものです。つまり、熱により電子が励起状態に持ち上げられ、エネルギーの低い状態に遷移する際に放射される光が見えているという事になります。

備長炭(七輪) Binchotan(Shichirin)Molten iron pour from ladle into melting furnace ; foundry porcess

光の散乱とスペクトル

 光が熱に変わったり、熱が光に変わったりとエネルギーの形は様々に変化します。散乱は、光と物質が相互作用した後、物質から再び光があらゆる方向に放射されることを言いますが、物質の種類によって再放射される波長毎の光の強度が決まっています。これはスペクトルによって把握出来ます。

 スペクトルとは、横軸を波長または振動数、縦軸を光の強度やフラックスによってあらわされます。例えば、太陽光であれば600nm付近で強度のピークを持つスペクトルになります。強度の差はありますが、可視光領域全てにわたって光が放射されている事が分かります。したがって、太陽光の色は全ての色が混ざり、白っぽく見えるのはそのためです。また、各元素や分子によっては輝線スペクトルが得られる事があり、このスペクトル形状は物質固有のものです。この物質固有のスペクトルを見る事で未知物質を判別する事が可能となります。

分光法について

 未知物質でもスペクトルを見れば判別出来るという特徴を活かして、サンプル判別または同定を行う事が出来ます。ここで、測定により得られた光を波長または振動数毎に分けてスペクトルを作るこの方法を分光法と呼びます。分光法には、ラマン分光法や赤外分光法、X線吸収分光法など様々な方法がありますが、ここではラマン分光法に関わる説明を行います。ある波長を持つ光がサンプルと相互作用して光が散乱されます。その散乱には2種類存在し、弾性散乱(レイリー散乱)と非弾性散乱(ラマン散乱)があります。一般的にレイリー散乱の強度が最も大きくスペクトルで見ると大きなピークがあります。

レイリー散乱とラマン散乱

これら二つの散乱の違いは、入射光(レーザー光であるとする)と同じ波長で散乱されるか、異なる波長で散乱されるか(ラマンシフト)です。

●レイリー散乱:入射光と同じ波長の光が放射されます。波長のズレはありません。入射光から貰ったエネルギーで原子または分子が励起状態になり、元のエネルギー準位に戻る散乱のこと。

●ラマン散乱:入射光と異なる波長の光が放射されます。波長のズレ(ラマンシフト)があります。入射光から貰ったエネルギーで原子または分子が励起状態になり、別のエネルギー準位に遷移します。

 ここで、サンプル判別または同定を行う際に、分子構造を反映しているのがラマン散乱によって得られたスペクトルです。したがって、あるサンプルに特定の波長を持つレーザー光を照射し、ラマン散乱光を測定、スペクトル解析する事で、判別または同定する事が出来ます。

 

ラマン散乱を用いた測定器、ラマン分光計についてはこちら。