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パルスNMRによる濡れ性・分散性評価

TD-NMR(パルスNMR)による濡れ性評価

 測定原理

NMR(nuclear magnetic resonance:核磁気共鳴)は一般的には化学シフトを計測し、有機化合物の構造解析を行う評価装置として広く知られています。しかしNMRスペクトルからは化学シフトだけではない多くの情報も得られるのです。その一つに緩和があります。簡単に言うと緩和とは一旦吸収されたエネルギーが減衰していく過程の事を指します1)。ラジオ波により励起した核スピンは周りの環境や核スピンのエネルギー交換により緩和します。その時間をT1(縦緩和時間、スピン‐格子緩和時間)、T2(横緩和時間、スピン-スピン緩和時間)として計測します。粒子に接触または吸着している液体(束縛された液体)とバルク液(粒子表面と接触していない自由な状態の液体)とでは、磁場の変化に対する応答が異なる事が判っています2)

濡れ性の評価には世の中に最も多く存在する1Hを観測するのが適しています。ですのでここでの観測原子核は1Hです。例として水に粒子が分散している系を考えてみましょう。粒子の表面に水酸基が存在する場合、粒子分散体の中には粒子表面の水酸基と水分子が水素結合などで束縛された水とそれ以外の自由な状態である水の2種類が存在します。束縛された水はエネルギー交換が起こりやすく1Hの緩和時間は短く、自由な状態にある水の1H緩和時間は長く得られます2) 3)。つまり濡れ性が良い場合多くの水素結合が存在し束縛された水が多い状態を指します。溶媒は水だけでなく、構造上に1Hが含まれれば評価に用いる事が可能です。

パルスNMR図1

下記は微粒子分散体の緩和時間のイメージ図です。

緩和時間 図ここで粒子分散液を測定して得られた緩和時間(Tnd(av))の逆数を緩和速度(Rnd(av))とした場合、得られる緩和速度は粒子界面に束縛された液体体積による緩和速度と自由な状態の液体体積による緩和速度の和となり以下の式が成り立ちます3)

Rnd(av) = ps Rns + pbRnb                    (1)

n=1の場合: 縦緩和時間、スピン‐格子緩和時間

n=2の場合: 横緩和時間、スピン‐スピン緩和時間

ps:粒子界面に束縛された液体体積

pb:自由な状態(バルク状態)にある液体体積

Rns:粒子界面に束縛された液体の緩和速度

Rnb:自由な状態(バルク状態)にある液体の緩和速度

Rnd(av)とRnbの変化割合から濡れ性を比較する事が可能です。変化割合をRspとし下記の様に示します3)

Rsp= (Rav / Rb) -1                    (2)

 

界面の状態が変化すると粒子界面に拘束される液体量は変化します。比表面積や粒子径に変化が無い場合、平均緩和速度(Rav)は粒子界面特性の影響のみを受けます。Rspが大きいほど粒子界面に多くの溶媒を拘束できると言えるでしょう2)3)

パルスNMR図3

上図(イメージ図です。実際は上図のような拘束層を形成してるわけではありません)は三つの微粒子分散体のRsp値を現します。粒子径の影響を省き、粒子の界面特性の影響を見るために、X軸総比表面積で縦軸Rspにした時、PSL分散系<シリカ分散系<アルミナ分散系順に水との親和性(濡れ性)が良いことが分かります。

 

微粒子を分散させた状態で評価する本手法は、シンプルに粉体の濡れ性だけでなく添加剤の吸着評価、最適な添加剤量、種類の決定、分散媒種の違いで粒子界面の状態変化も数値化する事が出来るのもTD-NMR(パルスNMR)法の特徴です。

1) 安藤喬志,宗宮創,これならわかるNMR, p.3, p.45(化学同人,1997)

2) P. J. DAVIS, D. P. GALLEGOS, D.M. SMITH,

Rapid Surface Area Determination via NMR Spin-Lattice Relaxation Measurements(1987)

3) Catherine L. Cooper, Terence Cosgrove, Jeroen S. van Duijneveldt, Martin Murray Stuart W. Prescott,

The use of solvent relaxation NMR to study colloidal suspensions2013).

→ 測定可能な装置はこちら: MagnoMeter

パルスNMR題1

 

 

【アプリケーション1】 CNTの分散終点~粘度測定との比較

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6) 金属酸化物粉体のロット間差~製造ラインの違いによる粉体界面の違い

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