耐候性試験とは
耐候性試験とは、紫外線・熱・水分など自然環境の要因が材料に及ぼす劣化を人工的に再現する評価試験です。主要因であるUV・熱・湿気の影響を科学的に解析し、樹脂・塗料・建材などの屋外耐久設計に役立てる技術者向けに解説します。
参考:耐候性とは?
耐候性の基礎と主要因
耐候劣化は主に以下の要素によって生じます。
| 劣化要因 | 主な影響 |
| 紫外線(UV) | ポリマー分解、退色、脆化を引き起こす主因。UVA(295–400 nm)領域が特に重要。 |
| 熱 | 熱劣化・膨張収縮・熱衝撃(例:真夏日後の急な雨)を誘発。色によっても温度差が生じる。 |
| 水分(湿気・雨・結露) | 吸水膨張、加水分解、凍結融解、物理的剥離などを誘発。屋外では「雨」よりも「露」の影響が支配的。 |
これらの要因が複合的に作用し、色差・光沢低下・クラック・白化・強度低下などが生じます。
試験設計では「どの要因を主に再現するか(UV主導/熱主導/水主導)」を定義することが重要です。
耐候性試験機の種類と特徴
耐候性試験を行うための試験機の種類と特徴について解説します。
| 試験方式 | 光源 | 特徴・用途 |
|
キセノン式 |
キセノンアークランプ | 太陽光の再現性が最も高い。可視光・赤外線も含むため実暴露に近い相関。自動車・建材・塗料分野で主流。 |
| 紫外線蛍光ランプ式 (QUV) |
UVA-340/UVB-313等 | 紫外線領域に特化。劣化因子の主因(UV)を再現し、低コスト・高再現性。JIS/ISO規格に広く採用。 |
| メタルハライド式 | 高照度ランプ | 短時間で強い劣化を与えるが、太陽光相関は低く、限定的な研究用途。 |
| カーボンアーク式 | 炭素棒アーク | 歴史的手法。現代ではほぼ置き換えられている。 |
それぞれの光源特性(分光分布、熱・湿度制御、スプレー条件など)に応じて、評価対象材料や規格を選定します。
屋外暴露試験と相関設計
促進試験結果を信頼するためには、屋外暴露試験との相関確認が不可欠です。
実際の屋外暴露では、紫外線量・降雨・温湿度が地域により大きく異なるため、海南島(高温多湿)やアモイ市(沿岸部)といった代表的環境が試験サイトとして用いられています。
相関設計の手順は以下の通りです。
- 屋外暴露試験(基準データ)を取得
- 各促進試験の結果との順位相関(Spearman法など)を算出
- 相関係数が0.8以上であれば「高相関」とみなし、加速設計を検証
- 材料別に加速係数(AF)を導出し、限界・不確実性を評価
ただしAFは一義的ではなく、「環境変動」「試験モード差」「材料劣化挙動の非線形性」により限界があることを明示すべきです。
試験条件・測定と加速係数の限界
促進耐候試験では、照射強度・温度・湿度・水負荷サイクルを制御します。
- 光条件:UVA-340を用いた295–400 nm帯再現
- 温度条件:ブラックパネル温度(BPT)で表記。一般に50~83°C。
- 水条件:結露(水蒸気冷却)またはスプレー(水噴射)を選択。
加速係数(AF)は、屋外1年=試験機○○時間、のように設定されますが、材料種別・劣化形態により大きく変動します。
そのため、AFは「目安」であり、品質比較・設計判断に使うべきで、寿命保証値ではないという原則を示す必要があります。
試験結果の解析方法
耐候性評価では、目的に応じた定量指標を用います。
| 評価項目 | 測定法・指標 | 主な目的 |
| 色差 | ΔE(CIE Lab) | 退色・黄変・白化などの評価 |
| 光沢 | 60°または20°測定、Gloss Retention (%) | 表面粗化や艶引けの評価。測定角度を統一することで比較性を確保。 |
| 力学特性 | 引張強度、伸び率 | 脆化や分子鎖切断の影響把握 |
| 外観 | クラック、チョーキング、剥離など | 観察・写真記録・等級付け |
統計的には繰り返し試験・サンプリング計画(3点以上)を基本とし、平均値・標準偏差・信頼区間による解析を行います。
アプリケーション例
促進耐候試験は、以下の産業分野で広く利用されています。
- 自動車部品・塗装・内装材
- 建築外装材・屋根材・シーリング材
- 家電・日用品の樹脂部品
- 包装フィルム・印刷物・テキスタイル
- 医療機器・化粧品容器 など
各業界では、自社またはOEM規格により耐候性基準を設定し、JIS・ISO・ASTM・SAEなどの国際規格を基礎としています。
試験規格と標準
代表的な試験規格は以下の通りです。
| 分野 | 試験方式 | 主な規格 |
| 一般材料 | 紫外線蛍光式 | JIS B7753 / ISO 4892-3 |
| 塗料・樹脂 | キセノン式 | JIS K5600-7-7 / ISO 4892-2 / ASTM G155 |
| 自動車 | 複合サイクル | SAE J2527 / PV1200 / GMW3417 |
| 建材 | 屋外暴露 | ISO 877 / ASTM G7 |
| 腐食連携 | サイクル複合 | ISO 11997-1 / JASO M609 |
これら規格は、光源・照度・温度・湿度・水負荷サイクル・試験時間を明示しており、各製品カテゴリに最適な試験条件を選定する指針となります。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 屋外暴露試験と促進耐候試験の違いは?
屋外暴露試験は、実際の気象条件下で材料を長期間曝露し、実環境での劣化挙動を評価する方法です。促進耐候試験は、紫外線・熱・水分を人工的に制御して短期間で再現し、相関確認に基づいて寿命推定を行う試験です。両者を併用して信頼性を高めるのが基本です。
Q2. キセノン式とQUV(紫外線蛍光ランプ式)はどのように使い分けますか?
キセノン式は太陽光全域(UV~可視~IR)を再現し、外観変化や退色を含む総合評価に適します。QUVは紫外線領域を重視し、主に樹脂・塗料などUV劣化主導の比較試験に適しています。評価目的・材料特性・規格要求に応じて選定します。
Q3. 加速係数(AF)は万能ですか?
いいえ。AFは屋外暴露との相関から導く目安であり、気候・試験モード・材料の劣化挙動によって変動します。したがって「1年=○○時間」といった単純換算は避け、比較評価や設計判断の補助指標として活用することが推奨されます。
まとめ
耐候性試験は「時間を圧縮して信頼を得る」ための科学的手段です。
正しい理解と設計に基づく試験は、単なる品質評価を超え、製品の市場競争力・ブランド信頼性の確立につながります。
装置選定ガイド
UV主導の劣化を低コストで比較したい
推奨:紫外線蛍光ランプ式促進耐候試験機 QUV(UVA-340/351、UVB-313EL)
理由: スペクトル安定・長寿命で条件比較に最適。結露サイクルで露の寄与を再現可能。
退色・熱影響まで含めて総合評価したい
推奨:キセノン耐候性試験機(キセノンウェザーメーター)Q-SUN(Xe-1/Xe-2/Xe-3/Xe-8)
理由: UV〜可視〜IRをカバー。フィルター、照度、BPT、湿度、露・スプレーを統合制御。
製品ページ:セノン耐候性試験機(キセノンウェザーメーター)Q-SUN
標準試験片は Q-PANEL をご利用ください。
