DLS法(Dynamic Light Scattering:動的光散乱)は、光散乱を利用したナノ〜サブミクロン領域の粒子径測定に広く用いられている測定法です。粒子分散液中でブラウン運動する粒子の散乱光強度のゆらぎを解析することで、平均粒子径(Z-average)、粒子径分布、多分散指数(PDI)といった情報が得られます。
ナノ粒子を簡単に評価することができるため、ナノ材料、化粧品、医薬、インク・塗料、金属ナノ粒子、スラリー系など、分散性・安定性が重要となるさまざまな分野で、DLS は欠かせない評価手法になっています。
このページでは、
「DLSとは?」の基本から、原理、測定データの解釈、用途別の活用例、他の粒子径測定法との違い、装置選定の考え方まで、DLS に関する情報をまとめてご紹介します。
DLS は、粒子分散液中でブラウン運動している粒子にレーザー光を照射することで発する散乱光の強度ゆらぎを時間的に追い、その自己相関関数を解析することで拡散係数を求め、ストークス–アインシュタイン式から粒子径を求める手法です。
D = kT / (6π η R)
R = 粒子半径
サブミクロンからミクロンサイズの粒子径測定法としてよく知られるレーザー回折散乱法も粒子にレーザー光を照射して粒子径を求めます。レーザー回折散乱法が「どの角度にどれだけ散乱したか」を解析するのに対し、DLS は「時間とともに散乱強度がどう変化するか」を利用するという点が大きな違いです。
測定原理の詳細はこちら 【関連記事】粒子径測定原理 動的光散乱法 DLS
DLS によって得られる主な情報は次の通りです。
Z-average は、散乱光の強度に基づいた平均粒子径で、大粒子の影響を非常に受けやすいという特徴があります。
PDI は粒子径分布の広がりを表し、値が小さいほど粒子径が揃っていることを意味します。体積や数分布への変換には屈折率などの情報が必要です。
DLS は液中で分散しているさまざまな粒子に適用できます。
ナノ粒子・コロイド分散液
乳化系・エマルション
金属ナノ粒子(Au、Ag など)
顔料・インク・塗料分散液
化粧品(乳化製剤、サンスクリーンなど)
医薬・ナノドラッグデリバリー(リポソーム、LNP 等)
電池材料・スラリー分散液 など
装置や光学系によっても異なりますが、DLS は概ね以下のような粒子径範囲で利用されます。
下限:0.5 nm 程度
上限:10 µm 前後
それより大きな粒子や幅広い粒子径分布の評価には、レーザー回折散乱法や画像解析法など他手法を併用することが一般的です。
Z-average は、DLS 測定で代表値として得られる平均粒子径です。
散乱光強度は粒子径の 6 乗に比例するため、わずかな大粒子や凝集体でも結果に大きく影響します。
この性質により、Z-average は以下のような用途に有効です。
分散プロセスの良否評価
凝集が始まった初期段階の検出
保存安定性のモニタリング
「粒子径そのもの」というよりは、「分散状態・凝集状態に敏感な指標」として位置付けると理解しやすくなります。
PDI は粒子度分布の広がりを表す指標で、一般には次のような目安で解釈されます。
0〜0.05:単分散サンプル
0.05〜0.08:狭い分散サンプル
0.7 以上:広分散サンプル
開発現場では、分散条件を変えたときの PDI の変化を見ることで、条件最適化の手がかりとすることができます。
DLS では、まず「強度分布(Intensity)」が得られ、そこからモデルに基づいて体積分布、数分布が算出されることがあります。体積、数分布への変換には粒子の屈折率などのパラメータが必要になります。
強度分布:測定の基本となる分布。大粒子に敏感。
体積分布:材料特性との相関を考えるときに用いられることもある。
数分布:粒子数としてのイメージだが、変換に前提条件が多い。
実務上は、まず強度分布で挙動を確認しつつ、必要に応じて体積・数分布も参考にする、というスタンスが現実的です。
DLS には次のようなメリットがあります。
ナノ〜サブミクロン領域の粒子径評価に非常に適している
測定が高速(数秒〜数十秒)でスクリーニングにも活用しやすい
必要サンプル量が比較的少ない
非破壊で測定できる
凝集や分散性の変化に敏感で、安定性評価に有効
一方で、DLS には注意すべき点もあります。
大粒子や少量の凝集体の影響を強く受ける
高濃度や濃色試料では、多重散乱の影響で解析が困難になる
粒子間相互作用(静電斥力など)の影響が現れることがある
粒子形状が大きく異なる場合、解釈が難しくなるケースがある
これらの性質を理解したうえで、測定条件や解釈を行うことが重要です。
インク・塗料・スラリーなど、実プロセスに近いサンプルは高濃度であることが多く、一般的な DLS では十分に希釈しないと測定が難しい場合があります。
主な課題は次の通りです。
多重散乱により、粒子径が小さめに評価される
濃色試料では散乱光の透過量が不足する
希釈により、実際の分散状態と変わってしまう
対策としては、
多重散乱を補正できる光学系・解析アルゴリズムを持つ装置を用いる
光路長の短いセルを用いる
などが挙げられます。
当社取扱装置の VASCO、VASCO KIN、THETIS などは、このような高濃度サンプルの課題に対応するための機能を備えています。
レーザー回折散乱法(LD)は、サブミクロン〜数 mm 程度までの広い粒子径分布を評価するのに適した手法です。
DLS との主な違いを整理すると、次のようになります。
DLS:およそ 0.5 nm〜10 µm 前後
LD:100 nm〜数 mm 程度
DLS:ブラウン運動(拡散)に基づくサイズ
LD:散乱角度分布から推定する幾何学的なサイズ
DLS:凝集や微小な変化に非常に敏感
LD:大きな変化は捉えやすいが、ナノ〜サブミクロン領域の変化には不向き
ナノ粒子の粒子径評価や、分散安定性のモニタリングには DLS が適し、広い粒径分布や粗大粒子を含む系の評価には LD が適するため、目的に応じた使い分けが重要です。
CPS Disc Centrifugeなどの遠心沈降法は、ナノ~サブミクロン 程度までの粒子径分布を高分解能で精度良く評価できる手法です。
DLS との主な違いを整理すると、次のようになります。
DLS:およそ 0.5 nm〜10 µm 前後
遠心沈降法:10 nm〜数ミクロン 程度
DLS:ブラウン運動(拡散)に基づくサイズ
遠心沈降法:沈降速度によって求められるストークス径
DLS:短時間で簡単にナノ粒子の平均径が得られるが、粒子径分布の分解能は劣る
遠心沈降法:ナノ粒子の測定には時間がかかる場合があるが、分解能が高く、精度の高い粒子径分布が得られる
どちらもナノ粒子やサブミクロン粒子の測定に適していますが、それぞれの利点が異なるため目的によって使い分けることが重要です。
SLS は主にレイリー方程式を使用して、サンプルの散乱強度から重量平均分子量(Mw)を求めます。
DLS:拡散係数から粒子径を評価
SLS:濃度を変えたサンプルの散乱強度を測定し、分子量を評価
DLS と SLS を組み合わせることで、粒子径だけでなく分子量まで含めたより深い解析が可能になります。
BeNanoシリーズのような DLS+SLS 複合装置は、このような解析に有効です。
NTA(Nanoparticle Tracking Analysis)は、個々の粒子をカメラで追跡し、そのブラウン運動から粒子径分布を求める手法です。
高度に単分散に近い系 → DLS が高速で有利
多分散系・複数の粒子群が混在する系 → NTA で個々の粒子を観察した方が解釈しやすい場合もある
DLS と NTA は互いを置き換えるというより、評価対象や目的に応じて使い分け、必要に応じて併用するのが望ましいです。
分散安定性を評価する際には、粒子径の変化だけでなく、粒子表面の電荷状態を示すゼータ電位も重要です。
DLS:粒子径の変化、凝集の進行をモニタリング
ゼータ電位:電気的な安定性(電気二重層の状態)を評価
両者を組み合わせることで、「なぜ安定なのか/不安定なのか」をより定量的に判断できるようになります。
顔料分散の均一性評価
分散プロセス条件(ミル、分散剤など)の最適化
保存中の凝集・沈降のモニタリング
インクジェットインクや高濃度顔料分散では、高濃度での評価が重要になるため、高濃度対応 DLS の有効性が高まります。
乳化粒子径と安定性の評価
粒子径と使用感(のび、べたつき、白浮き)との相関検討
TiO₂、ZnO などの無機 UV 材の分散性評価
乳化粒子径の変化や粗大粒子の発生は、外観や安定性に直結するため、DLS による定期的なモニタリングが有効です。
粒子径と封入率・放出挙動の関係評価
保存条件・凍結融解による粒子径変化の確認
製造プロセスの再現性評価
医薬分野では、粒子径と多分散指数(PDI)、ゼータ電位の組み合わせによる総合的な評価が求められるケースが増えています。
金属ナノ粒子の凝集状態の評価
表面修飾やリガンド交換による分散性変化の検証
金属ナノ粒子は、わずかな凝集が光学特性に大きく影響するため、DLS による粒子径・安定性評価が有効です。
スラリー中の粒子分散状態の評価
粒子径と粘度・レオロジー特性の相関検討
分散条件(撹拌・ミル・添加剤など)の最適化
沈降や時間変化を伴う系では、VASCO KINのようなin-situ 型 DLS によるリアルタイム測定が有効です。
セル・キュベットの洗浄と管理
希釈溶媒のフィルタリング(0.2 µm フィルターなど)
超音波処理などによる凝集体の分散
測定温度の安定化と平衡時間の確保
濃度条件(通常、薄すぎや濃すぎるのは不適)
測定回数・積算時間の設定
濃度を変えて測定し、濃度依存性を確認する
経時測定により、保存安定性やプロセス変化を追跡する
Z-average と PDI、分布形状を総合して判断する
測定可能な粒子径レンジ
検出角度(90°、180°、多角度など)の構成
高濃度・濃色サンプルへの対応範囲
温度制御のレンジと安定性
in-situ 測定の可否
サンプル量やセルの種類
評価対象のサンプル特性と目的に応じて、最適な光学系・測定方式を選定することが重要です。
VASCO:高濃度・濃色サンプルの測定に対応
VASCO KIN:in-situ 非接触で経時変化を測定
THETIS:DLS と SLS を組み合わせ、多角度測定により構造情報まで評価できる装置
用途やサンプルの条件に応じて、どの装置が適しているかをご提案可能です。
Q. DLS ではどこまで小さい粒子を測定できますか?
A. 条件にもよりますが、一般に 0.5 nm 程度までの粒子径を測定できます。
Q. PDI はどの程度以下であれば「良好」と考えられますか?
A. 目安として 0.1〜0.2 程度が良好とされます。0.3 以上では凝集や広い粒子径分布が疑われます。
Q. 凝集を DLS で検出できますか?
A. はい。Z-average の増加や PDI の悪化として現れますので、初期の凝集検出に有効です。
Q. 高濃度サンプルはどうすれば良いですか?
A. 一般的には希釈が必要ですが、高濃度対応 のDLS(VASCO など)を用いることで、実プロセスに近い条件での評価も可能です。
Q. 沈降してしまうサンプルの測定は可能ですか?
A. 粒子のブラウン運動を観測するため沈降があるサンプルの測定はできません。沈降後の上澄み溶液に分散する粒子の粒子径分布を測定することが可能です。
粒子径測定や分散性・安定性評価でお困りの点がございましたら、サンプルや用途、ご希望の評価内容などをお知らせください。
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