粉末食品の固結や湿気、医薬品の潮解・加水分解、精密機器の内側での結露など、製品の保管・輸送環境における「湿度(水分)」は、製品の物性や安定性を脅かす大きな要因です。こうした水分子の侵入・放散を防ぐ防湿性能を定量的に評価する指標が「水蒸気透過率(WVTR:Water Vapor Transmission Rate)」です。
本ページでは、防湿包装設計や防湿フィルム開発の現場で基本となる水蒸気透過率(WVTR)の定義から、カップ法・赤外線センサー法などの各種測定方式、JIS/ASTM/ISO規格までをわかりやすく解説します。
水蒸気透過率(WVTR:Water Vapor Transmission Rate)とは、規定の温度・湿度条件において、指定の膜材料を24時間あたりに通過(透過)する水蒸気の質量(重さ)を表した指標です。一般的には g/m2/day(24時間あたりに1m2のエリアを透過する水蒸気の質量) という単位で表されます。
水分子(水蒸気)は気体分子の中でも非常に小さく、プラスチックフィルムなどの有機材料を容易にすり抜ける性質を持っています。水分の侵入や移動は製品に物理的・化学的な変化を引き起こすため、多くの産業で厳密なWVTR評価が行われています。
また、高気密な防湿だけでなく、「衣料用透湿防水シート」や「紙おむつ」のように、外部からの水滴は通さず内部の蒸れ(水蒸気)だけを外に逃がす「高透湿性」の評価にもWVTRが用いられます。
水蒸気バリア性を正確にコントロールするには、素材の評価と製品形状での検証を分ける必要があります。
防湿性の高いフィルムを採用していても、キャップのネジ部の隙間や、シール部分の圧着不良から水分がじわじわと侵入することがあります。製品の品質保持期間を正しく設定するためには、完成容器での透湿試験も重要です。
水蒸気透過率を測定・算出する測定原理にはいくつかの種類があり、それぞれ対応する規格(JIS、ISO、ASTMなど)や適したバリアレベルが異なります。
・該当規格例:JIS K 7129、ASTM F1249、ISO 15106-2など
・特徴:測定スピードが速く、高感度。現代のバリア評価において最も広く普及している方式の一つ。
【詳細な測定原理:ランベルト・ベールの法則の応用】
透過セルは、サンプル(試験片)を挟んで「乾燥窒素が流れるキャリアガス側」と「水蒸気で満たされた湿潤側」に分かれています。サンプルを透過した水蒸気は、キャリアガスによって赤外線検出器(IRセンサー)へと運ばれます。
IRセンサー内部では、水蒸気が特定の波長の赤外線を吸収する性質を利用して濃度を測定します。ここに「ランベルト・ベールの法則(Lambert-Beer law)」が応用されています。
光が水蒸気を通過する際、水蒸気の濃度(c)が高ければ高いほど赤外線は吸収され、検出器に届く光の強度(I)は弱くなります。この光の減衰量を正確に測定することで、透過した微量な水蒸気量をリアルタイムに算出します。
・該当規格例:JIS K 7129、ISO 15106-3など
・特徴:高い検出感度を持ち、特に高い遮断性が求められる「ハイバリア材料」の微量透過測定において、優れた再現性と信頼性を発揮します。
【詳細な測定原理:ファラデーの電気分解の法則】
サンプルを透過した水蒸気は、乾燥窒素キャリアガスによって電量計センサー(五酸化二リン:P2O5を塗布したセル)に送り込まれます。
センサー内部では、強力な吸湿性を持つ五酸化二リンが水蒸気を完全に吸収してリン酸へと変化します。このリン酸に電圧をかけることで、電気化学的に水素と酸素に電気分解し、センサーを元の五酸化二リンの状態に戻します。この時、「ファラデーの電気分解の法則」に基づき、分解に要した電流値を測定します。
水分子を分解するのに必要な電気量(流れる電子の数)は理論上完全に決まっているため、流れた電流値を直接カウントすることで、校正を行うことなく、透過した水蒸気の絶対質量をダイレクトに算出することができます。
・該当規格例:JIS Z 0208、JIS K 7129、ASTM E96など
・特徴:全ての測定法の「原点」であり、比較的コストが安価。ただし、透湿度が高い材料(ローバリア〜ミドルバリア)向け。
【詳細な測定原理:恒温恒湿槽内での重量変化測定】
規定の温湿度に管理された恒温恒湿槽(試験槽)の中に、試験片を密閉した金属製またはガラス製のカップを入れ、時間の経過とともに変化するカップ全体の重量を天秤で測定します。
カップ法には、試験環境の構築方法によって「乾燥剤法(吸湿法)」と「水法(蒸発法)」の2種類があり、評価したい条件に合わせて選択します。
A. 乾燥剤法(吸湿法)
原理: カップの内部に乾燥剤(塩化カルシウムなど)を入れ、試験片で密閉します。これを高温多湿な恒温恒湿槽に入れることで、カップの「外側(高湿度)」から「内側(低湿度)」へと水蒸気が透過します。
測定: 外気からカップ内へ透過・吸収された水蒸気の量だけ、カップ全体の重量が増加するため、その重量増加の傾き(グラフの直線性)から透過率を計算します。
用途: 一般的な防湿包装材料(プラスチックフィルム、シート、加工紙など)のバリア性評価における「最も標準的な手法」です。外気からの湿気をどれだけ防げるかを測定する際に用いられます。
B. 水法(蒸発法)
原理: カップの内部に蒸留水(または純水)を入れ、試験片で密閉します。これを乾燥気流中、またはカップ内よりも湿度の低い恒温恒湿槽に入れることで、カップの「内側(高湿度:約100%RH)」から「外側(低湿度)」へと水蒸気が透過します。
測定: カップ内から外気へと水蒸気が蒸発して抜けていくため、カップ全体の重量が減少します。その重量減少の傾きから透過率を計算します。
用途: 主に高湿度下での材料の挙動を見たい場合や、透湿防水性繊維(雨を防ぎつつ汗の蒸れを逃がす衣服の素材)や建材(透湿防水シート)などの評価によく用いられます。
注意点
いずれの方法も、一定時間ごとにカップを試験槽から取り出して計測を行うため、人間の手による計量プロセスや環境変化の影響を受けやすいという側面があります。そのため、微量な透過量を測る超高バリア(ハイバリア)材料の測定には不向きであり、測定完了までに数日〜数週間を要します。
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